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秋田地方裁判所本荘支部 昭和46年(ワ)51号 判決 1973年1月26日

主文

被告らは各自原告に対し金七七〇万円及びこれに対する、被告板垣は昭和四六年一二月一六日から、被告吉村は同年同月一七日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの、連帯負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一  被告らは各自原告に対し金一一七〇万七、七三九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行の宣言。

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(原告)

一  事故

原告は次の交通事故で受傷した。

(一) 日時 昭和四三年一二月一六日午前七時四五分頃

(二) 場所 秋田県由利郡象潟町小砂川字小田九番地路上

(三) 被告車及び運転者 小型貨物自動車(山形四む三二〇五号)。被告吉村義勝。

(四) 態様 前記路上を本荘方面から酒田方面に向つて歩行中の原告に対し反対方向から進行してきた被告車が接触した。

(五) 傷害 原告は脳内出血、前頭骨皹裂、顔面・頭部挫創、第一頸椎骨折、左肩関節部打撲(左上肢麻痺)、右膝部打撲、右第五肋骨々折の傷害を受けた。そして自動車損害賠償保障法施行令別表に定める障害等級四級相当の後遺症がある。

二  責任原因

(一) 被告板垣

被告板垣は、被告車を所有し、業務用に使用して、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により原告の損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告吉村

被告吉村は前方不注意、側方不注意の過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により原告の損害を賠償すべき責任がある。

三  損害

(一) 休業損害 八九万三、七六〇円

原告は、ユザ東電化株式会社に勤務していたが、事故後欠勤、退職し昭和四三年一二月から昭和四六年一一月まで三年間の年収に相当する八九万三、七六〇円(平均月収二万一、二八〇円。ボーナス年二ケ月分。)の実害を蒙つた。

(計算)

21,280円×(12+2)=297,920円(年収) 297,920×3=893,760円

(二) 逸失利益 三七五万四、六八五円

(年収) 二九万七、九二〇円

(労働能力喪失率) 一〇〇%原告は後遺症四級であるが常時コルセツトを使用し、着替え、入浴、食事等にも付添人を要する程であるから一〇〇%とすべきである。

(就労可能年数) 昭和四六年一一月現在二四才(昭和二二年生)前記会社の定年である四二才までの一八年

(中間利息の控除) 年五分の割合によるホフマン式計算

297,920×100/100×12,603=3,754,685円

(計算)

(三) 治療費 六一、八六四円

金医院 一二、五三〇円

酒田市立病院 四九、三三四円

(四) 入院雑費 一五万九、三〇〇円

原告は、金医院に昭和四三年一二月一六日から昭和四四年一月六日まで二二日間、酒田市立酒田病院に同年一月七日から昭和四五年五月三〇日まで五〇九日間合計五三一日間入院治療した。

531×3000=159,300円

(五) 入院中付添看護費 三二万六、三〇〇円

二五一日

251×1,300=326,300

(六) 通院バス代 五万二、六四〇円

原告は付添人一人と昭和四五年五月三一日から昭和四六年七月二一日まで実日数四七日間右酒田病院へ通院した。

一回往復一人五六〇円付添人とも二人で一回一、一二〇円

1,120×47回=52,640円

(七) 将来の付添費 四五五万九、五八〇円

原告は前記のとおり付添人なしには生活できないので、平均余命五一年

一日五〇〇円の割合によるホフマン式計算による現価。

365×500×24,984=4,559,580円

(八) 慰藉料 三八〇万円

前記傷害に対する慰藉料は三八〇万円が相当である。

(九) 弁護士費用 八五万円

本件原告訴訟代理人に支払う手数料五万円及び謝金八〇万円。

(一〇) 損害のてん補

原告は被告から一九万〇、三九〇円、自賠責保険から二五六万円、合計二七五万〇、三九〇円の支払を受けた。

四 結論

よつて原告は被告らに対し各自(一)ないし(九)の総合計一、四四五万八、一二九円から(一〇)の二七五万〇、三九〇円を差引いた金一、一七〇万七、七三九円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降完済まで年五分の割合による金員の支払を求める。

五 抗弁に対する答弁

原告の過失及び被告吉村の無過失を否認する。

本件事故は被告吉村が、進路前方を強風をさけようとして下を向いて対面歩行してくる原告の動静を充分注視しないで進行を継続したために原告に接触したものである。

(被告ら)

一  請求原因に対する認否

(1) 原告主張一の事実を認める。(但し(五)のうち傷害の事実は不知。)

(2) 同二の(一)(二)の事実のうち、被告板垣が被告車を所有し業務用に使用して、自己のため運行の用に供していた事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(3) 同三の事実のうち(三)及び(一〇)の各事実は認める。同(二)の事実のうち原告の後遺症が四級であること、同(四)の事実のうち入院期間が原告主張のとおりであることの各事実は認め、同(二)、(四)のその余の事実は不知。同(一)、(五)、(六)、(七)、(九)の各事実は不知。同(八)の事実は争う。

二  免責の抗弁及び過失相殺

本件事故は、原告の一方的過失により発生したものである。被告吉村は被告車を運転し前記道路左側を酒田方面から本荘方面に向けて進行中折から右道路右側を歩行中の原告が突然強風に吹きとばされ、被告車の直前へとび出してきたため、被告吉村は原告に接触してしまつたものであり、被告吉村としては不可抗力による事故であり、原告は強風下にあり突風に吹きとばされないように注意すべきであるのにこれを怠つたものである。

以上の次第で被告吉村には運転上の過失はなく、事故の発生はひとえに原告の右過失によるものである。また被告板垣には運行供用者としての過失はなかつたし、被告車には構造の欠陥も機能の障害もなかつたのである。したがつて被告吉村は責任を負担するいわれはなく、また被告板垣は自賠法三条により免責される。仮りに被告らに帰責事由があるとすれば、右事情を勘案すると過失割合は被告吉村三〇%、原告七〇%と見るのが相当である。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告主張一の事実中(五)の傷害の事実を除くその余の事実及び同二の(二)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで本件事故の過失関係について判断する。

〔証拠略〕を総合すると、被告吉村は被告車を時速五〇キロメートルで酒田方面から本荘方面に向けて運転し、右事故現場にさしかかり、前方道路約五〇メートルで道路の左側端から約一メートルの位置に、折からの強風を避けるため前かがみになり不安定な状態でふらふらしながら対面歩行してくる原告を発見し、強風にあおられて原告が自己の進路前方にとび出すのを恐れ、警音器を一回鳴らした(尚被告吉村は原告は右吹鳴に気付いていないようであつたと供述している。)が、進路を更にセンターライン寄りに変更するとか、減速等の措置をとらず、そのままの速度で進行し、約一八メートルに接近したところ、原告が強風にあおられて道路中央部に向けて約三メートル程とびだしたのを発見し、衝突の危険を感じたが、対向車もないので直ちにハンドルを右に切ることもできたのにこれをせず、急制動の措置をとつたが及ばず、被告車の左前照灯附近を原告に衝突させ、同人に原告主張の一の(五)に記載の傷害を負わせたこと、被告吉村は右自動車を運転中強風のため車がよせられることもあつたことの事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右事実によると、被告吉村は進路前方約五〇メートルで原告を発見した際、強風にあおられて原告が道路中央寄りにとびだすことも充分予測できたものであるから進路を道路中央寄りに変更し減速して進行すべき注意義務があり、また約一八メートルに接近して原告が道路中央寄りに吹きよせられるのを発見した際にも、直ちにハンドルを右に切るべき注意義務があるものであり、被告吉村は右義務を怠つたものであるから、本件事故につき被告吉村に過失のあることは動かし得ないところであり、被告ら主張の免責の抗弁も理由がない。

してみると被告村は民法七〇九条により、被告板垣は自賠法三条により運行供用者としての責任を免れないが、原告においても右強風下にあつては通行車両に対し万全の注意を払うべき義務があるのに漫然と歩行していた過失があり、その過失割合は原告三に対し被告吉村七と認めるのが相当である。

三  そこで損害について判断する。

〔証拠略〕を総合すると、原告は本件事故により原告主張一の(五)記載の傷害を負い、金医院に昭和四三年一二月一六日から昭和四四年一月六日まで、酒田市立酒田病院に同年同月七日から昭和四五年五月三〇日まで合計五三一日間入院し(右入院の事実は当事者間に争いがない。)、退院後同年同月三一日から昭和四六年七月二一日までの間実日数にして四七日間通院したが、なお神経系統に障害があり、四級の後遺症が残つており、上半身にコルセツトを常時着用し、着替え、入浴、食事等も一人ではできない状態であることが認められ、これに反する証拠はない。

そこで以上の事実を前提に、以下損害の数額について判断する。

(一)  休業損害

〔証拠略〕によると、原告は訴外ユザ東電化株式会社に勤務し事故前三カ月の平均給与は月額二万一、二八〇円であつたこと、年に給与二ケ月分を下らないボーナスの支給があり結局年収二九万七、九二〇円の収入が予定されており、原告は本件事故により右会社を休業して、その後退職し昭和四三年一二月から昭和四六年一一月まで三年間の年収に相当する八九万三、七六〇円の損害を蒙つたことが認められ、これに反する証拠はない。

21,280円×(12+2)×3=893,760円

(二)  逸失利益

前記後遺障害に照すと原告の労働能力の喪失は昭和四六年一一月以降一八年間九二%と認められるので、右期間の逸失利益の現価を年五分の割合による中間利息の控除をすると三四五万四、三一〇円となる。

297,920円×92/100×12,603=3,454,310円

(三)  治療費

原告が六万一、八六四円の治療費を支出し損害を蒙つたことは当事者間に争いがない。

(四)  入院雑費

原告が原告主張の合計五三一日間入院したことは当事者間に争いがない。そして前記傷害の程度に照すと雑費は入院一日につき三〇〇円の割合による一五万九、三〇〇円と認めるのが相当である。

(五)  入院付添費

〔証拠略〕によると、原告は前記入院期間中のうち昭和四四年八月二三日まで二五〇日間は付添看護を必要とし、その間原告の親族が付添つたことが認められるところ、右労務は一日一、〇〇〇円と評価するのが相当であるから、原告の付添看護費相当の損害は二五万円と認められる。

(六)  通院バス代

前判示事実と〔証拠略〕によると、原告は付添人一人とともに実日数四七日間通院し原告主張(六)のとおり五万二、六四〇円を支出し同額の損害を蒙つたことが認められる。

(七)  将来の付添費

原告の右傷害の程度に照すと原告は将来とも付添人を要するものと認められ平均余命五一年一日四〇〇円の割合によるのが相当でホフマン式計算による現価は三六四万七、六六四円となり、原告の損害と認める。

365日×400×2.4984=3,647,664円

(八)  過失相殺と損害のてん補

ところで右(一)ないし(七)の合計額は八五一万九、五三八円であるが原告には前記のように三割の過失があつたことが認められ、また原告は損害のうち二、七五万〇、三九〇円のてん補を受けていることは当事者間に争いがないので、結局被告らの賠償すべき金額は三二〇万円と認めるのが相当である。

(九)  慰藉料

原告の傷害の傷害の部位、程度、本件事故の態様、過失等原告は結婚適令期にあること等諸般の事情を総合考慮すると、原告の精神的損害を慰藉すべき額は三八〇万円が相当である。

(一〇)  弁護士費用

原告が本件訴訟追行を原告訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、前記認容額その他諸般の事情を考慮すると被告らにおいて負担すべき弁護士費用の額は七〇万円が相当である。

四  よつて原告の被告らに対する本訴請求は前項(八)(九)(十)の合計金七七〇万円及びこれに対する被告板垣は訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四六年一二月一六日から、被告吉村は同じく同年同月一七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるので認容し、その余を棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項但書を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮良允通)

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